家族の問題・人間関係に悩むM男さん

私が家族に関する幼い頃の記憶としてまず思い浮かぶのは、両親がたびたび繰り広げる激しい口論です。母は父を口汚く罵り、責め、父はそのストレスを姉に暴力というかたちでぶつけました。私は、そのような様々な「怒り」のうずまく状況をただただ恐れ、どうやったら家族が仲良くできるか、そのことばかり考えていたように記憶しています。

その後、プライドの高い両親の期待を一身に背負うようになった私は、その期待に応えることが家族関係を良好に保つ道だと強く信じ、一生懸命勉学に励みました。しかし、中学校、高校と歩みを進め、心身ともに成長していく中で、そのような親の期待を自分の目標と重ね合わせる自らの人生に強く疑問を感じ、苦しさを感じるようになりました。

ところが、家族の平和を自分が背負っているという歪んだ自負と両親との共依存関係がその苦しさから目をそらせました。その結果、両親との関係は、もはや自分への「呪縛」となって、私のそれからの人生をあらゆる面で縛るようになりました。そして、他者との人間関係においても過度に過敏になり、生き辛さや無力感を感じるようになりました。
社会人になってからも、両親との関係は一向に変わりませんでした。週末のたびに電話で連絡したり、実家まで会いに行ったり。一見すると、「仲の良い理想の親子関係」であり、私は「孝行息子」ということになるのでしょうが、私にとってその役回りは、もはや「重荷」でしかありませんでした。しかし、当時の私は、その「重荷」を下ろすと言う選択肢をとることはあり得ないと強く信じていたため、親子関係をやり直すことができずにいました。

そのような中、私は他者との人間関係でもよくつまずき、そのたびに数ヶ月間休職するということを繰り返すようになっていきました。休職中に部署を変わることで、とりあえずのリセットはできるものの、コワモテ系の上司と関わることになるたびに心身の健康を崩し、休職してしまう。同じことの繰り返しに、強く自分に失望していました。どうやったらこの悪循環を断ち切れるのか、とずっと思い悩む中、出会ったのが檜原先生でした。

 檜原先生とのカウンセリングは、まさに「目からうろこ」の連続でした。今まで長い時間思い悩み、自己分析を繰り返してきただけに、もはや自分に関する新たな気づきはないだろうと思っていたのですが、じっと私の話を聞いていた檜原先生から発せられる「一言」は、自分の全く意識していないポイントを的確に突いており、何度も驚かされたと記憶しています。
そのような気づきの過程で、私は、自分が感じている生き辛さの根源は、自分自身の弱さにあるのではなく、両親との関係にあると強く再認識するようになりました。そして、自分のために親との関係を清算し、「重荷」を下ろすべきという結論に改めて到達したのですが、その一歩を踏み出す勇気が当初全くありませんでした。そんな恐ろしいこと、できるはずないと信じていました。

しかし、檜原先生が何度も私を励まし、勇気付けてくれたおかげで、私は遂にその一歩を踏み出すことができました。両親に自分の真情を吐露し、一定の距離を置くことができたのです。両親からは今も時々非難がましいことを言われますし、そのせいで辛い思いをすることもたびたびありますが、今はその辛さよりも自分の足で人生を歩めている実感に対する喜びがはるかに大きいです。

今、自分は確かに、人生の新たなステージに入ったと思っています。今後も、私は自分自身に内在する生きづらさと日々直面し、深く悩むこともあるでしょう。それでも、今までとは違うという実感が自分の歩みをより強いものにしてくれると信じています。そして、以前、檜原先生が私におっしゃってくれた「貴方は同じところを回っているようで、実は螺旋階段のように少しずつ上に上がっているんだよ」という言葉を胸に、自分の人生を歩んでいきたいと思います。