EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing)

EMDRとはEye Movement Desensitization and Reprocessingの略語であり、「眼球運動による脱感作と再処理法」と訳され、アメリカの臨床心理士Francine Shapiro氏が1989年に発表した心理療法です。
この方法はアメリカ、イギリス、フランス、オーストラリア、オランダなどの世界各国や、国際トラウマティックストレス学会、北アイルランド保健省、イスラエル国立精神衛生会議などの団体が発表するPTSDの治療ガイドラインに「実証された最も効果がある心理療法」の1つとして、認知行動療法と並んで載せられています。

EMDRは、適応的情報処理(AIP)というモデルに基づいています。
このモデルでは、精神病理の多くが、トラウマ的な、もしくは苦痛でいやな人生経験が、不適応的にコーディングされた、もしくは、不完全に処理されたことによると仮定されています。これにより、クライエントは経験を適応的に統合する能力に障害を受けます。EMDRの8段階、3分岐の過程が健常な情報処理、統合の再開を促します。
この治療アプローチでは、過去経験、現在の引き金、未来の潜在的挑戦をターゲットにし、現在の症状を緩和し、苦痛な記憶からストレスを減じたり、除いたりし、自己の見方が改善し、身体的苦痛から解放され、現在と未来の予測される引き金が解決するのです。

日本でも1500名以上の専門家がトレーニングを終えました(2012年5月時点)。EMDRにおいて、眼球運動や他の両側性の刺激は大きな役割を果たし、脳を直接的に刺激し、脳が本来もっている情報処理のプロセスを活性化できるのです。
手続き的には簡単に見えても、しっかりとEMDRの研修を積んだ精神保健の専門家のみが実施すべきです。起こりうるさまざまな悪影響にしっかり備えることが重要です。しっかりした研修と実践を経れば、5年、10年かけて、心のどこかに落ち着いていくプロセスを非常に短時間に進めることができます。そして、その過程は患者さんの脳の本来の力を引き出すので、マインドコントロールのように洗脳される、臨床家に操られるというような心配は全くありません。また、止めたいときにはいつの時点でも止めることができます。また、これまでの治療方法では、起こったできごとのすべてをこと細かく語ることが必要とされることが多かったのに比べて、大変ストレスの少ない方法です。

EMDRが過去の否定的な経験を処理できるので、PTSDに対してのみの治療法ではないことは明らかです。これまで症例報告されている治療の成功例には、うつ、人格障害、解離性障害、統合失調症、恐怖症、強迫性障害、パニック障害などの不安障害、加害者の矯正、さらに失われたものへの喪の作業ともいえる死別、ターミナルケア、重篤な身体疾患の受容(ガン、幻肢痛)といった領域があります。

(引用:日本EMDR学会・EMDRとは 、星和書店「こころのりんしょう EMDR トラウマ治療の新常識」)