薬中のS男

「俺は、薬中です!宜しくお願い致します。」と初回面接で挨拶する。

S男は、シンナーから覚せい剤、アップジョン(精神安定剤)と様々な薬物を使用していた。目はぎらつき、大言壮語でオーバーアクション。面接中もおどけたり、笑いを取ったり、落ち着かない様子でまくしたてる、時折こちらを鋭く観察しているようでもあった。シンナーをしみ込ませたティッシュをポケットに丸めて詰め込んで持ち歩いていた。そこで、母親にも同時期に平行面接を勧め、薬物依存について正しい知識と対応を学んで頂いた。家族は、これまで、良かれと思っていろいろと尻拭いや更生させようと叱咤激励してきた経緯があり、特に、母親は自責の念も強く、本人の言動に振り回されていた。家族の依存症に対する理解が進み、「このままでは回復はない」と覚悟を決められて、心を鬼にして出来る限り本人に問題を返すように対応を変えた。

その結果、来室して一ヶ月後、「軟禁された、追われている」と被害妄想が出現し、自らSOSをセラピストに出してきた。このタイミングを逃さず、専門の精神科病院を紹介して入院。入院中に主治医とケースワーカーと連携を取り、退院後は施設へ入所する道筋をたてた。三ヶ月後、退院して薬物依存の回復施設へ入所し、その後、何度かのスリップを繰り返したが、現在は、薬物依存の回復施設で重要な役割を担いながら精力的に活躍している。